「創る」第15号
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創る◆特集クラウドファンディングを活用した道内市町村の取組SLの活用に向けて取組と成果課題・工夫した点室蘭市SL再生の取組室蘭市には、昭和38年に開設した道内最古の科学館として知られる「室蘭市青少年科学館」があり、この施設の敷地内に、かつて石炭輸送に使われたSL、D51ー560号が昭和50年から屋外展示されていました。しかし、青少年科学館の老朽化等に伴う施設整備が進められたことにより、このSLを今後どのように活用するかが課題となり、移設にかかる経費や、現状維持の場合の施設整備への影響など、様々な事柄について検討しました。室蘭市は、明治以来、本州への「石炭積出し港」として、戦前の産業近代化や、高度経済成長期を支えてきた地域であり、ゆかりの建築物として国の登録有形文化財となっている「旧室蘭駅舎」が現存しますが、こうした地域の歩みをより広くPRする上でも、このSLを旧室蘭駅舎の隣接地に移設し、旧駅舎と一体的に活用しようと考えました。市では「まちづくり協議会」という公募による市民ワークショップを行い、平成30年度にはSLをどのようにまちづくりに活かすのかをテーマとして開催しました。幅広い年齢層の方々に参加いただき、車両のライトアップや、メンテナンスのイベント化など多くのアイデアが出され、今回の車両移設の取組に反映しました。SLに関心のある方や愛好家は全国各地に存在し、また、「石炭積出し港」室蘭の地域柄、ゆかりのある方が多く、こうした歴史的背景に基づいたSL活用の取組について、クラウドファンディングという形で全国に発信することで、資金面での支援を得るだけでなく、移設後の活用方策、そして室蘭市のSL以外の様々な取組についても、関心を寄せてもらう契機になると考え、市として初のクラウドファンディング事業に踏み切りました。この事業の内容について検討を進めるに当たり、単に車両移設自体への支援を募るだけでは、行政が行う事業の補填にしかならないため、より効果的に活用する上での付加的な整備を行うことを目標とした方が良いのではないかと考え、SL移設後における「SL車両のライトアップ」をプロジェクト化しました。これにより、近隣地域はもとより全道・全国から暖かい支援をいただき、目標額の2倍を超える寄附が寄せられました。クラウドファンディングにより、SLの移設活用の取組に多くの方の関心を引くことができ、大きな成果となりました。特に、地元室蘭の方々に、実際にSL移設事業に参画するという意識を強く喚起することができ、従来の行政の取組とは異なる成果が得られました。集まった支援金は当初の予定どおり、移設後のライトアップに活用し、目標額を大きく超える部分については、支援の趣旨を鑑み、SLの保全上必要な車両の再塗装などの経費に充てました。こうして、令和元年8月23日、SLの旧室蘭駅舎横への車両の移設が実現しました。警備などの関係から日時等を公開しないことも考えましたが、今回は地域の関心も高いため、警察をはじめ、関係機関と十分な連絡調整の上で沿道警備の体制を整え、移設日時を公開し、観覧を呼びかけました。当日は雨天にもかかわらず、市内近郊や全道各地から延べ560人が沿道で観覧する中で、昭和50年以来、44年ぶりとなるSL車両移設が無事終了しました。プロジェクト化に当たって、事業内容や目標金額の設定など、経験がなく、関心を示していただけるか見込みがつきにくく悩んだところでしたが、結果として多くの支援をいただきました。支援への返礼品については、通常のふるさと納税の返礼にしている地元の特産品も検討しましたが、やはりこのプロジェクトでしか得られない品が良いと考え、SL移設時のポストカードセット、SLと旧駅舎のオリジナルペーパークラフト、現地の芳名版への掲載、まちづくり協議会のワークショップの様子「SL仕上げのひと塗り」の様子移設に向け運搬されるSL02

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